新しいデータ基盤を導入し、ダッシュボードも整えた。それでも現場の社員はExcelを使い続ける。そんな話を聞くと、「社員が変化を嫌っている」と思いたくなるかもしれません。しかし、新システムのほうが遅くて使いにくいなら、現場の選択はむしろ合理的です。日本の小売企業ミスターマックスHDの事例が、そのことを教えてくれます。
1. 新しい基盤ができても、現場の仕事は変わらなかった
ミスターマックスHDは2023年5月からSnowflakeを利用したデータ基盤の整備を始め、Tableauも導入しました。2024年9月に本格稼働したものの、当初は処理が遅く、必要な情報を十分に取り出せないケースがあったといいます [1]。
現場ではExcelや経験に頼る作業が続き、ダッシュボードを増やしても、従来の表計算を置き換えるだけになってしまう場合がありました。負荷に合わせて計算リソースを増やすとコストも膨らみます。
2. 改善の中心は、設定と業務の見直し
同社はパートナーを見直し、設定、クエリ、定期処理、不要なテーブルなどを点検しました。報告された改善結果では、あるデータ抽出処理が約2時間から数分に短縮され、全体の表示・抽出時間は50%超、プラットフォーム全体のコストは40%超減少しました [2]。
これらは測定対象の異なる数値で、足し合わせることはできません。記事で紹介された店舗責任者の例では、必要なデータ取得のために朝7時に出勤する必要がなくなり、8時から仕事を始められるようになったといいます。使いやすさは実際の働き方を変えます。
3. この事例から考えたい三つの誤解
ダッシュボードが増えればDXが進むとは限りません。その画面で、誰が何を判断しやすくなるかが大切です。システムが遅いからといって、処理能力を追加するだけでは原因が残ることもあります。また、導入ベンダーにすべてを任せず、自社も業務要件と成果に責任を持つ必要があります。
- 画面数よりも、現場の判断が早くなったか。
- 本番に近い負荷で、必要なデータを取得できるか。
- 現場担当者とIT担当者の双方が改善に関われるか。
4. Excelをなくすこと自体が目的ではない
Excelは、臨時の集計や試行錯誤に役立つ道具です。問題は同じデータを何度もコピーし、情報の食い違いや待ち時間が発生することです。
新しいシステムを評価するなら、実際の業務でかかる時間、必要なデータの正確さ、社員の負担、継続的な運用コストを確認すべきでしょう。導入後も利用者の声を拾い続けることが重要です。
5. AIを活用する前に、使えるデータ基盤を
ミスターマックスHDは改善後、需要予測や店舗分析、発注・在庫確認などにAIエージェントを活用する取り組みも始めたと報告されています [2]。
順序が重要です。データが不正確で、従来業務が複雑なままなら、AIを追加しても問題は拡大します。まず現場で役立つ基盤を整えること。それが次の自動化につながります。
“DXの成果は、システムの稼働日ではなく、現場の仕事が良くなったときに表れます。”
参考文献・出典
- [1]ミスターマックスHD、処理速度が遅かったデータ基盤を立て直しAIエージェントの基盤に DIGITAL X / Impress · 2026-10-15
- [2]ミスターマックスHDのデータ基盤改善(続編) DIGITAL X / Impress · 2026-10-15




